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東京地方裁判所 昭和44年(むのイ)853号 決定 1969年5月14日

被告人 N・N(昭二四・九・五生)

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

一、本件準抗告の申立の要旨は、「東京地方裁判所裁判官が昭和四四年一月二一日にした申立人に対する勾留の裁判を取消す。検察官の勾留請求を却下する」との趣旨の裁判を求め、その理由として、本件勾留について、刑事訴訟法第六〇条第一項各号の要件がいずれも存在しない、というのである。

二、一件記録によれば、申立人は、昭和四四年一月二一日東京地方裁判所裁判官により建造物侵入(不退去)、兇器準備集合、公務執行妨害の各罪を犯したと疑うに足りる相当の理由及び刑事訴訟法第六〇条第一、二、三号の各要件があるとして勾留され、さらに同月二九日、右勾留の期間を延長する裁判を受けたものであるが、勾留延長期間中の同年二月九日、東京地方検察庁検察官は申立人に対する右事件を東京家庭裁判所に送致し、同日、右事件の送致を受けた同裁判所の裁判官は、少年法第一七条第一項第二号により申立人を東京少年鑑別所に送致する旨の観護措置決定をし、さらに同月二一日、右観護措置決定の期間を同月二三日から更新する旨の決定をしたうえ調査審判をし、同年三月三日、少年審判規則第二四条の二第一項により申立人に対し刑事訴訟法第六〇条第一項第二、三号に該当する事由がある旨告知したうえ右観護措置決定を取り消すことなく少年法第二三条第一項、第二〇条によつて右事件を東京地方検察庁検察官に送致する旨決定をし、同月一二日同庁検察官は申立人を右事件について東京地方裁判所に対して起訴した各事実が認められる。

三、ところで、少年法第一七条第一項第二号にいう観護措置は刑事司法手続における勾留制度とは別個の制度で刑事司法的機能に加えて少年保護機能を併せもつものであるから、東京地方裁判所裁判官が同年一月二一日になした申立人に対する前記勾留の裁判の効力は、事件が東京家庭裁判所に送致された同年二月九日にすでに消滅したものと解さざるを得ず、従つてすでに失効した勾留の裁判の取り消しを求めてなされた本件準抗告の申立は申立の利益を欠くものとして失当というほかはない。

なお少年法第一七条第一項第二号の措置がとられている事件について、同法第二〇条による検察官に送致する旨の決定がなされたときは、同法第四五条第四号により右の観護措置は勾留とみなされ、検察官が被疑者を釈放しないまま公訴を提起したときは改めて勾留の裁判がされないときでも刑事訴訟法第六〇条第二項により引続いて勾留されることとなるのであつて、本件において申立人もまたこの規定により勾留されているのであるから申立人が家庭裁判所裁判官による少年法第二〇条の検察官送致決定をなす際になされた刑事訴訟法第六〇条第一項第二、三号に該当する事由がある旨の判断について不服があり、これを争うのであれば、同法第四二九条第一項により準抗告の申立をすることができると解することができるが、申立人の本件申立がその趣旨であると解せられるとしても、刑事訴訟法第四二九条第一項によれば、家庭裁判所裁判官のした勾留に関する裁判に対する準抗告はその裁判官所属の家庭裁判所に請求すべきものとされているから、当裁判所にこの点を審理する権限がないものと認められ、結局、その余の判断をまつまでもなく申立人の本件申立は失当であるから、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第一項に則り主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 真田順司 裁判官 三井善見 裁判官 中西武夫)

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